
トランプ政権下で発足した政府効率化省(DOGE)による大胆な連邦政府改革が進行中である。イーロン・マスク氏が実質的な責任者として率いるこの組織は、わずか数カ月で政府機関の大規模な縮小と予算削減を推し進めている。
DOGEの概要と使命
DOGEは、トランプ氏が就任初日の2025年1月20日に署名した大統領令によって創設された組織である。「連邦政府の技術とソフトウェアを近代化し、政府の効率と生産性を最大化する」ことを目的としている14。正式な「省」という名称を冠しているものの、連邦議会が制定する法律に基づいて創設された連邦政府の「省」ではなく、ホワイトハウス内の既存部門「米国デジタルサービス」を改組した期間限定の組織だ1。
アメリカ建国250周年にあたる2026年7月4日までの期限付きで設置されたDOGEは、当初の目的を超えて、あらゆる連邦政府機関に立ち入り、削減できる歳出や職員を探すまでに活動範囲を拡大している1。
マスク氏の立場と影響力
イーロン・マスク氏はDOGE内での正確な立場について議論がある。ホワイトハウスの公式見解では、マスク氏は「特別政府職員」という立場で、政府から給与を受け取らず、任期は130日以内とされている1。DOGEの正式な責任者はエイミー・グリーソン長官代行とされているが1、トランプ大統領自身は「(DOGEを)率いているのはイーロン・マスク氏である」と明言している1。
実際にマスク氏は政権の閣議に少なくとも2回参加し、大統領執務室での記者会見でもDOGEの業務に関する説明を担当するなど、実質的な影響力を持っている1。
DOGEの最近の成果
予算削減の実績
マスク氏率いるDOGEは、その設立からわずか数週間のうちに複数の連邦機関の解体や職員削減を実施してきた。DOGEの公式ウェブサイトによれば、2025年3月24日の時点で、連邦職員の削減や資産の売却、契約の停止といった一連の活動により、米国納税者の負担を1兆1500億ドル削減したと試算している1。
最新の発表では、マスク氏は2026年会計年度(2026年9月まで)に政府支出を1500億ドル削減する見通しを明らかにした9。マスク氏は3月の時点で、1兆ドルの節減を実現し、連邦政府の歳出を現在の約7兆ドルから6兆ドルに削減できると自信を示していた9。
具体的な改革活動
DOGEは教育分野でも支出削減を推進しており、教育省で計10億ドル規模(約1500億円)の契約を打ち切った8。教育省だけでも8億8100万ドル相当の89件の契約が解除されたと報告されている8。
また、連邦政府の人事部門である人事管理局(OPM)を通じて、連邦政府職員に早期希望退職を促す通知を送付。ホワイトハウスによれば、約7万5000人がこの勧奨に応じたという1。
マスク氏のチームは現時点までに20以上の政府機関に立ち入り、現・元連邦政府職員だけでなく、何百万人もの米国民に関する個人データを含むコンピューターシステムへのアクセス権を取得している1。さらに内国歳入庁(IRS)が保有する納税者のデータへのアクセスも試みているとの情報もある11。
不正支給の摘発
2025年4月9日、DOGEは失業給付制度における大規模な不正支給を公表した。調査によると、2020年以降に115歳以上と申告した2万4500人に対して合計5900万ドル(約90億円)を支給していた9。さらに1~5歳と登録された2万8000人には2億5400万ドル(約364億円)、15年以上未来の誕生日が登録された9700人には6900万ドル(約99億円)が支払われていた9。中には2154年生まれとされた人物に4万1000ドル(約588万円)を給付した事例も確認された9。
小規模ビジネス庁(SBA)では、社会保障データベースに存在しない115歳以上の個人に3,000件以上のローン(総額3億3,300万ドル)を承認していた10。157歳の借り手が3万6000ドルを受け取った事例や、11歳未満の子供名義の企業に3,593件(総額3億1,200万ドル)の融資を行った事実が発覚した10。
技術革新への取り組み
DOGEは政府システムの技術的刷新も進めている。特に注目されるのは、社会保障局の旧式システムの刷新だ。6000万行ものCOBOLコードを含む社会保障局のシステムをコード生成AIでわずか数カ月の内に移行させようとする計画があり、その大胆な取り組みが注目されている2。
課題と批判
DOGEの活動に対しては批判の声も上がっている。削減総額は検証不可能で、削減額の試算にはエラーや訂正が多いという指摘もある1。マスク氏自身も、間違いが発見された場合には修正すると述べている1。
強引な手法での予算や人員の削減は一部の閣僚や高官との不和を生み、民主党も攻撃対象にしている10。また、DOGEによる措置に対しては複数の訴訟が起こされており、その活動の一部が法的に問題視されている状況だ1。
データプライバシーを巡る訴訟
2025年2月13日、DOGEは「米国史上最大のデータ侵害」として複数の訴訟を提起された4。ニューヨーク連邦地裁では、OPMが管理する数百万件の人事記録への不正アクセスが問題視され、1974年プライバシー法違反が主張されている4。メリーランド連邦地裁では財務省の連邦支払いシステムへのアクセスが争点となり、社会保障番号や銀行口座情報の流出リスクが指摘された4。
バージニア連邦地裁での訴訟では、Electronic Privacy Information Center(EPIC)が「数千万人の個人情報が危険にさらされている」と主張し、1人当たり1000ドルの法定損害賠償を要求している4。
GAO報告書との整合性問題
政府監査院(GAO)の2023年報告書によると、連邦政府の不適切な支払いは年間2360億ドルに上るが2、DOGEが掲げる数兆ドル規模の削減目標との整合性に疑問が呈されている。レダー=ルイス助教授は「不適切な支払いの解消だけではマスクの目標達成には不十分」と指摘している2。
マスク氏の今後
マスク氏のDOGEでの任期は早ければ2025年5月末に終了する可能性があり3、トランプ大統領はマスク氏が「数カ月で」現在の職務を離れると言及している12。一部報道ではマスク氏の近いうちの退任が報じられたが、マスク氏自身は「フェイクニュース」と否定している10。
バンス副大統領によれば、マスク氏が去った後もDOGEの取り組みは継続され、マスク氏は「アドバイザーであり続ける」という12。
今後の展望
マスク氏とDOGEによる連邦政府改革の取り組みは、今後も継続する見込みだ。トランプ政権の大胆な政府縮小政策の中核として、DOGEの動向は引き続き注目される。最終的な成果が当初の目標に達するかどうか、また政府機能への影響がどのようなものになるかは、今後の展開が注目される。